桜前線1章(元の文章)
・契約書記入内容
_____トリップ契約書_____
(苗字)(名前)(以下「甲」という。)と、日本トリップ協会(以下「乙」という。)は以下のとおりトリップ契約(以下「本契約」という。)を締結する。
第一条. 契約後からトリップ成功までの期間、甲はいかなる場合においても人権を剥奪されない。
第二条. トリップに成功した場合、甲の生命を乙に譲渡するものとする。その場合、乙は甲の生命を自由に利用することが可能である。
第三条. トリップ後、甲の希望した設定が反映されるものとする。
第四条. 希望する設定は可能な限り具体的に書かなければ効果が小さくなる恐れがある。
第五条. トリップ先の世界で甲が死亡した場合、現実世界での甲の戸籍が正式に消滅する。尚、トリップ後の戸籍は新たに作成されている。
第六条. トリップに失敗した場合、本契約は無効になるものとする。
第七条. 本契約は契約後、取り消すことができない。
以下の問いに答え、希望する設定を書き込んでください。但し、その世界観の中で不適、または不可能と判断される設定の場合は無効となります。その場合はあなたにその旨が通知され、再度書き込んで頂くことになります。
問一 行きたい世界
イナズマイレブンGO
問二 世界に在住する期間
松風天馬が雷門中学校へ入学する一週間前
から
グランドセラスタ・ギャラクシー優勝後のアースイレブンが地球に帰還してから一週間後
問三 希望する能力(五つまで) ※能力発現には時間がかかる場合があります。
・念じると左手から無限に一万円札が出てくる
・念を込めながら相手と目を合わせることで、人間を一時間洗脳することができる
・プロのようにサッカーがとても上手い
・
・
問四 出現地点
稲妻町の鉄塔広場 階段付近
問五 希望する手配
・雷門中学校への入学
・トリップ後の稲妻町ホテル/スタンダードシングルルームに継続宿泊
問六 トリップ後の名前は本名か偽名か。偽名である場合のみ以下に記入。
【___】
問七 希望容姿イメージ
焦茶色ショートで目がぱっちりとしていて、裸眼で視力が良く、透き通るような声をもつ。
御記入ありがとうございました。
この用紙は速やかに日本トリップ協会の元へ送られ、正式なトリップ日時が後日通知されます。
・プロローグ
心の乱れに つけこむ者がいる
それが悪でも 善に見えてしまう
人間とは なんと愚かな生物か
そこに魅惑的な道があれば 進んでしまう
わたしは既に 闇に取り込まれた
だめだ だめだと叫んでも
もう もとの世には戻ってこられない
終わりだ 全て終わりなのだ
しかし そこは楽園だった
1. はじまりの鉄塔広場
底冷えするような風が背筋をざわつかせる。己の熱がどこかに吸い取られていくような感覚を覚えた。髪が頬に触れたような気がした。足が、手が先端に向かうほど硬直している。
どこか懐かしい香りが鼻を擽った。
いつだろう。こんなに身体が受け入れるくらいの香りを経験したのは。
全身が一気に震えた。
それと同時に全神経が目覚めた。
「あっ、……成功したんだあ」
自分でも情けないほどの安心した小さな声が漏れ出た。思わず口元が緩む。やっと来れた。やっと大好きな世界に来れた。嬉しい。嬉しさが溢れて止まらない。神さまありがとう。ありがとう、ありがとう………___。
.
辺りを見回すと、自分が鉄塔広場の階段で横たわっていたことに気づいた。私以外には誰もいない。強いて言うなら階段下から猫が私をじっと見ているということくらいだ。空は綺麗な夕焼けで、それを背景にカラスが一匹飛行している。
その場で起き上がり、階段を椅子として座る。改めて自分の身体を確かめる。手をわしゃわしゃと機能を確認するように動かした。正常に動くようだ。もとの世と全く同じ感覚だ。感覚を確かめてから、身体を手で弄りながら自分の状態を把握する。どうやら無一文で、何の所持物もないようだ。それと、早く自分の容姿を鏡で見たい。
「さっむ!!」
無意識に言葉に出していた。寒い。なんだこれ、普通に寒いぞ。というか、なんで私は開始地点をここにしたんだ。特に考えることなく決めてしまった。もっとあたたかい場所を選ぶべきだったなあ。春だと思って油断していた。いざトリップすると、設定に抜け目があったことをひしひしと感じる。
.
背後を振り向くと、池があった。水面が朱に照らされてゆらゆらと動いている。池の近くまで数歩歩いて近寄ってみると、茂みに使い古された釣り竿が置いてあるのを発見した。誰かがここで釣りをしているのだろうか。私はそう思いながら少し傾斜のある道を進んだ。
.........さて、これからどうしようか。
・1. はじまりの鉄塔広場
底冷えするような風が背筋をざわつかせる。己の熱がどこかに吸い取られていくような感覚を覚えた。髪が頬に触れたような気がした。足が、手が先端に向かうほど硬直している。
どこか懐かしい香りが鼻を擽った。
いつだろう。こんなに身体が受け入れるくらいの香りを経験したのは。
全身が一気に震えた。
それと同時に全神経が目覚めた。
「あっ、……成功したんだあ」
自分でも情けないほどの安心した小さな声が漏れ出た。思わず口元が緩む。やっと来れた。やっと大好きな世界に来れた。嬉しい。嬉しさが溢れて止まらない。神さまありがとう。ありがとう、ありがとう………___。
.
辺りを見回すと、自分が鉄塔広場の階段で横たわっていたことに気づいた。私以外には誰もいない。強いて言うなら階段下から猫が私をじっと見ているということくらいだ。空は綺麗な夕焼けで、それを背景にカラスが一匹飛行している。
その場で起き上がり、階段を椅子として座る。改めて自分の身体を確かめる。手をわしゃわしゃと機能を確認するように動かした。正常に動くようだ。もとの世と全く同じ感覚だ。感覚を確かめてから、身体を手で弄りながら自分の状態を把握する。どうやら無一文で、何の所持物もないようだ。それと、早く自分の容姿を鏡で見たい。
「さっむ!!」
無意識に言葉に出していた。寒い。なんだこれ、普通に寒いぞ。というか、なんで私は開始地点をここにしたんだ。特に考えることなく決めてしまった。もっとあたたかい場所を選ぶべきだったなあ。春だと思って油断していた。いざトリップすると、設定に抜け目があったことをひしひしと感じる。
.
背後を振り向くと、池があった。水面が朱に照らされてゆらゆらと動いている。池の近くまで数歩歩いて近寄ってみると、茂みに使い古された釣り竿が置いてあるのを発見した。誰かがここで釣りをしているのだろうか。私はそう思いながら少し傾斜のある道を進んだ。
.........さて、これからどうしようか。
2. 初めまして、稲妻町
道を2回左に曲がると、住宅街に繋がる階段があった。こんなのあったっけ。イナGOのアニメとゲームは一通り復習してきたが、細かい位置は省略されていたりするのでよく分からない。
「えーっと...こ、ここはどこだ...」
小さな声でそう呟く。今向かうべきは稲妻町にあるはずのホテルだ。確か商店街の先にあったはず。しかし、商店街自体の位置がわからない。うーん、とりあえず左に行ってみよう。私は駐車していたトラックの隣を通って歩き始めた。
適当に街を歩く。下手に右や左に曲がらずに、直線で進んだ方がいいだろう。それでいて、できるだけ大通りを歩いた方が安全だ。きっと商店街にたどり着ける。そうした謎の確信に導かれて私は堂々と進んでいった。
.
しかし、なんということだろうか。今、目の前にはなぜか大豪邸がある。
近辺はロイヤル感のある真っ白な家ばかりで、庭には優雅に風に吹かれる花々が植えられているではないか。横断歩道を渡る先には「徐行」「50」と書かれた標識がある。その先にはなんとも立派な車が停車していたり、テラスがある。右を向けば、大豪邸。不審者と思われたくはないので近くまでは寄らないが、雰囲気は感じる。つい豪邸前の歩道で立ち尽くしてしまう。
もしかして。もしかしてだろうか。この家は...
「あの、道に迷ったんですか?」
反射的に声のする方に振り向く。すると、その先には見覚えのありすぎる人がいた。ウェーブのかかった灰色の髪で、雷門中の制服を身に付けながら白いバッグを肩に掛けている。突然の登場で衝撃のあまり返事を返すのに少々タイムラグがあった。まさかの登場だった。このタイミングで。
3. 神童との遭遇